2022年度:第46回カリキュラム

第46回(2022年度)東京電機大学ME講座 講師・日程・題目【オンライン講座】

9月27日(火)

福原 武志(国立研究開発法人 理化学研究所 脳神経科学研究センター 神経変性疾患連携研究チーム)

 薬と言ってまず何を思い浮かべるだろうか。様々なタイプ(モダリティと呼ぶ)の医薬品が開発される時代が到来しており、現代創薬は、医歯薬理工農情をまたぐ知識や技術のパイプラインを必要としているが、容易いことではない。再初期段階の探索ステップだけでも、その「質と量」を満たすのに様々な工夫が必要である。
 中でも「抗体」について、まず基本的知識や探索事例を学ぶ。先行する抗体医薬品で新しい抗体医薬品の作用機序を理解するとともに、古くて新しい課題や、産学官連携のミッシングリンクについてもしてみたい。

村松 和明(東京電機大学理工学部理工学科 生命科学系 教授)

 高分子量ヒアルロン酸(HA)は細胞外基質に含まれる構造多糖である。これまでHAは、保水作用や粘弾特性をはじめとする物理化学的な性質に基づいて医学利用されてきたが、近年では抗炎症作用や免疫調節機能を有することも明らかとなり、生理活性を活かしたHAの利用法の拡大が期待される。本講演では、演者が開発した分解抵抗性HA誘導体の研究事例を踏まえ、医療におけるモダリティーの多様化に対応したHA誘導体の活用法について紹介する。

10月4日(火)

佐久間 一郎(東京大学大学院工学系研究科 医療福祉工学開発評価研究センター 教授)

 医用工学の社会実装形態としては各診断に必要な種生体情報を収集する「診断機器」と、生体の機能や構造に変化を与えるために何らかの人工的な操作を加える「治療機器」というものが想定される。一方次世代の革新的医療機器の研究開発の方向性として「診断治療の一体化」という目標が掲げられている。これは治療標的部位の生体計測、認識技術とそれに基づく治療手段の制御を統合化する技術を作るということである。講義ではこれまで取り組んできた手術支援ロボットと術中光学計測の融合、超音波画像計測と治療システムの融合、多電極マッピングによる心臓興奮伝播計測とデータ解析による治療支援などの研究例を紹介する。

笹野 哲郎(東京医科歯科大学大学院 循環制御内科学 教授)

 AIとITの応用は社会全体に及んでいるが、医療もその例外ではない。医療においては、画像や内視鏡、病理診断などの領域でAIの実用化が進んでいるが、循環器領域では、心電図を対象としたAIの応用が試みられている。また、循環器診療においては、心電図や脈波などのモニタリングが以前から行われてきた。近年、スマートウォッチに代表されるウェアラブル機器の普及により、生体情報モニタリングはさらに手軽になり、これらの機器から得られる長時間の生体信号データを用いた遠隔診療によって、疾患の早期発見や重症度評価が可能となっている。本講演では、心電図や脈波信号を中心として、循環器診療におけるAIとITの応用について述べる。

10月11日(火)

仲上 豪二朗(東京大学大学院医学系研究科 老年看護学/創傷看護学分野 教授)

 看護学が対象とする現象を理解し、的確な介入を提案するためには、臨床をつぶさに観察することから始め、メカニズムの探索、客観的計測方法の開発、介入機器・システムの開発、臨床での評価といった、一連の円環的研究プロセスが求められる。それを実践しているのが看護理工学であり、「無いなら創る、そして広める」をスローガンにした新しい融合的研究フレームワークといえる。基礎と臨床、そして研究と実践の結びつきについて、主に褥瘡感染症に関する研究事例を通して解説する。

山下 和彦(東都大学幕張ヒューマンケア学部 臨床工学科 教授)

 足部は歩行を支え、子どもから高齢者までの日常生活の基礎となる。足部骨格は子どもの頃に発達し、高齢期に筋力や関節機能の低下が起こる。その間、外反母趾や回内足など様々なトラブルが発生し、要介護リスクを高める。しかし、身近な環境で足部の機能を調べる技術は開発されなかった。我々はICTやスマホを活用し、足部の形状の定量的評価を行う技術開発を進めている。外反母趾のリスクや発生メカニズムが明らかになると、その特徴に応じた予防が実現できる。さらに、中長期的な歩行の追跡研究の結果から、疾病発症率等が明らかになってきた。本講座では、健康づくりに足部や歩行が寄与する考え方を概説する。

10月18日(火)

森 健策(名古屋大学大学院情報学研究科 知能システム専攻 教授)

 本講義では、医用画像処理分野における人工知能の基礎と応用について解説したい。人工知能技術(AI技術)、あるいは、機械学習技術(ML技術)は急速に進歩し、社会生活の様々な場面での利活用が進んでいる。医療分野、とりわけ、医用画像処理分野においても、ML技術を活用した診断支援機器の開発や臨床現場における利活用が進んでいる。そこで、本講義では、画像処理分野におけるAI技術・ML技術について基礎的な事項の解説を行い、これらの技術の本質を学ぶとともに、それを応用した医用画像診断支援機器について紹介したい。

桑名 健太(東京電機大学工学部 先端機械工学科 准教授)

 内視鏡下手術は、体にあけた数個の小さな穴を介して、細長い棒形状の内視鏡や手術器具を使って体内を治療する手術である。切開範囲が小さく、患者に対する負担が少ないという利点がある一方で、使用する内視鏡や手術器具の特徴から、手術中の視野・作業空間が狭い、奥行きを正しく知覚することが難しい、触った感覚が得られない、等、医師にとっては負担の大きな手術となっている。そのため、外科医をサポートするデバイスが求められる。本講義では、演者が研究で活用しているMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術の概要を説明し、把持対象の硬さ計測が可能なセンサ付鉗子システムをはじめとした手術支援デバイスの研究を紹介する。

10月25日(火)

田中 慶太(東京電機大学理工学部理工学科 電子工学系 教授)

 昨今の急速なデジタル化やCOVID-19による社会構造の大きな変化による、人の心的影響は無視できない問題となっている。そのため人の心の働きを解明する脳科学がさらに重要性を増すことが予想される。本講義では、脳の仕組みを理解するための脳計測装置を紹介します。特に神経細胞の興奮に伴う脳血流量の変化を画像化する手法であるfMRI、脳神経活動に伴う神経の細胞内電流を、超伝導磁束量子干渉計(SQUID)により計測する脳磁図(MEG)の研究について説明する。最後に脳計測からわかること、脳科学の今後を展望する。

川瀬 利弘(東京電機大学工学部 情報通信工学科 准教授)

 生体信号で動かせる機械の手である筋電義手は、生体、特に脳・神経系の働きを工学的に理解するサイバネティクスの考え方から生まれた。その後約70年の間に、神経科学の進歩のほか、運動・知覚における身体構造の効果、身体に対する主観的感覚の働きなどが明らかとなり、医療・福祉機器にも影響を及ぼしている。本講義では、ヒトと親和性の高い運動支援ロボット(義手、アシストスーツなど)の実現に役立つ、こうした神経科学・認知科学の新しい見方を解説しながら、その応用例として、生体信号や流体を使用したアシストスーツ、関連する身体認知の研究を紹介する。

11月1日(火)

村垣 善浩(東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 先端工学外科学分野 教授)

 情報誘導手術は、外科医の経験による判断ではなく客観的な可視情報による意思決定を行う手術である。摘出率と予後との関連が示唆された悪性脳腫瘍(神経膠腫)を主対象に3種情報を基に判断する。
 残存腫瘍を同定する術中MRIやナビゲーションから解剖学的情報を取得し、覚醒下手術や運動誘発電位等による機能的情報、術中迅速診断や蛍光診断から組織学的情報を取得する。20年で2000例以上の悪性脳腫瘍摘出術を施行し平均摘出率90%を達成した。
 物理力やロボットで治療を行う精密誘導治療に発展させるために、現在、すべての機器をネットワークで接続したスマート治療室SCOTを臨床研究中(100例以上施行)であり、近未来型のシステムを紹介する。

小林 英津子(東京大学大学院工学研究科 精密工学専攻 教授)

 本講義では低侵襲手術支援ロボットシステムについて、これまでの研究の概要、ならびに、現在の最新の研究状況について紹介する。手術支援ロボットに関する研究は、機械工学、情報工学、そして、医学などの分野にまたがる学際的な研究分野である。通常のロボットとは異なり、外科分野におけるニーズに即したロボット開発、それにともなう、機械機構開発、情報処理機構開発が求められる。本講義では、これらを紹介すると共に、これからの低侵襲手術支援ロボットシステムの今後について講義する。

11月15日(火)

井上 淳(東京電機大学工学部 機械工学科 准教授)

 福祉機器開発の現場でも、仕様策定が重要だという共通認識が形成されて久しいが、実際にはその策定に失敗することが多くある。また、臨床現場では利用者と開発者の間に、中間利用者ともいうべき医師や理学療法士・作業療法士・看護師などが介在する。そういった中間利用者が福祉機器の利用に関わる場合、単純に「効果がある」というだけではなく、中間利用者の工学的なレベル,使用する場面を想定したものづくりの重要性の必要性を強く認識する必要がある。そこで今回は、仕様策定の重要性と、現場を意識したものづくりについて解説する。

大西 謙吾(東京電機大学理工学部理工学科 電子工学系 教授)

 本講義では、義肢と支援機器の研究開発について紹介する。定義上、義肢は先天性形成不全や事故や疾病にともなう切断により欠損した四肢の機能を補完するものであるが、現実には人間の手足の機能の一部しか補えない。では、義肢の使用は、医療行為なのか、生活を支援する一般の機器の扱いなのか?義肢・支援機器・医療機器とではどのような開発上の違いがあるのか?また、現在、義肢使用者はどのような義肢を使っているのか?高機能な義肢があれば機能回復だけでなく健常者を超える能力を得られるのか?これらのことを考えながら、四肢を欠損する人に必要な義肢の開発、研究について研究事例を紹介しながら考えたい。

11月22日(火)

荒船 龍彦(東京電機大学理工学部理工学科 電子工学系 教授)

 生体を数値モデルで再現するin silico(生体数値シミュレーション)研究は、生体機能の解明と理解にフォーカスを当てた従来の研究に留まらず、現在飛躍的に発展しその活躍の場を広げています。2013年のFDA、NIH主催のin silicoワークショップを皮切りに、米国や欧州学会が医療機器開発にin silicoを活用するガイドラインを策定し、わが国でも次世代医療機器ガイドラインに記載が盛り込まれるなど、その重要度は増しています。海外で先行するin silicoと医療機器開発・評価の最新動向を、in silicoを実際に活用した機器の具体例を交えながら解説します。

木阪 智彦(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 医療機器審査第二部 審査専門員)

 米国発祥のバイオデザインは、デザイン思考を取り入れた科学的手法である。インドは本手法を先駆的に取り入れ「リーンスタートアップを原動力にデジタル化を遂げた新興国型イノベーション」を躍進に繋げる。本講義では、講師が自らの経験をもとに「フルーガルイノベーション」について概説する。本邦の医療制度は受益者本位の稀有なものであり、これを高い透明性のもとレギュラトリーサイエンスが支える。さらに、産業界が擁するユニークな要素技術は、機器開発の活力の源泉である。日本の技術力と信頼性を活かし、低廉でありながら現場ニーズ(=痛み)に応える機器が現場に届く未来を展望し、その担い手として本講義の聴講生の活躍に期待する。

11月29日(火)

許 俊鋭(東京都健康長寿医療センター 心臓血管外科 センター長)

 重症心不全に対する究極的治療は心臓移植および人工心臓治療である。年間2500例以上の心臓移植が実施される米国でもドナー不足は深刻で、植込型LVADによるDestination Therapy (DT)が長足の普及を見ている。2014~2017年の米国INTERMACS統計では植込型LVADの50%がDTである。日本でも2021年4月30日にHeartMate3がDT(Destination Therapy:長期在宅補助人工心臓治療)適用となり保険収載され東大・阪大など7施設がDT施設として認定された。
 日本の2019年の心臓移植数は84例と増加したが、COVID-19感染流行の影響を受け2020・2021年は54・59例にとどまった。2021年12月末の心臓移植数は625症例で、移植待機期間は1700日以上に及ぶ。一方、植込型LVADはこの10年間に1299例(Primary LVAD 1043例、BTB 256例)に使用され3年生存率86%(Primary LVAD 88%, BTB 81%)と世界に冠たる治療成績を示している。

西中 知博(国立研究開発法人 国立循環器病研究センター研究所 人工臓器部 部長)

 機械的循環補助法は近年急激な進歩を遂げ、必要不可欠な治療手段となっている。心肺蘇生、重篤循環不全症例に使用されるECMO(Extracorporeal membrane oxygenation)は広く普及している。呼吸補助として重症呼吸不全症例の治療においても使用されている。心肺蘇生、重篤な循環不全症例に使用されるECMOは静脈脱血、動脈送血方式で実施されるが、全身の循環を保つうえで有効がある一方で、左心室に対しては負荷増加を来すなどの課題がある。小型の軸流ポンプを有する経皮的ポンプカテーテルが普及しつつあり、単独またはECMOと併用され使用されている。これらの機械的循環補助法では救命し得ない重篤症例に対しては、体外設置型、及び植込み型補助人工心臓が適応される。体外設置型補助人工心臓は拍動流式が用いられてきたが、最近、連続流式補助人工心臓が開発されている。植込み型補助人工心臓は心臓移植へのブリッジ使用およびDestination Therapyとして必要不可欠な治療手段となっている。

12月6日(火)

谷城 博幸(大阪歯科大学 医療イノベーション研究推進機構 事業化研究推進センター 開発支援部門 教授)

 医療機器を国内で製造販売するためには、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)に基づく審査を受ける必要がある。また、審査を経て製造販売が認められた後も、企業は薬機法に基づく安全対策や、PDCAサイクルを維持しQMS(品質マネジメントシステム)の改善等に努めていく必要がある。本講演では、医療機器行政の経験を踏まえ、国内における医療機器規制に関する紹介を行いたい。医療機器規制に関する理解を深め、研究・開発時点から規制を意識して進めることにより、研究シーズからの実用化に際して円滑に活用できることを期待する。

修了式

※都合により変更になる場合があります

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