FD/SDセミナーレポート「東京電機大学中学校・高等学校における 学年横断型課題探求学習 TDU-4DLab -高大接続を見据えて-」東京電機大学中学校・高等学校 平川吉治先生

2016.11.01

教育改善推進室開催、平成27年度FD/SDセミナーは『東京電機大学中学校・高校 教頭 平川吉治先生』をお招きして<東京電機大学中学・高校における 学年横断型課題探求学習 TDU-4DLabの取組み 高大接続を見据えて>と題して、今後の大学教育におけるカリキュラム検討の参考とするため、中高における教育の現状や、学年横断型課題探求学習の取組みのお話を伺いました。

20160308FD講師

東京電機大学中学校・高等学校
教頭 平川 吉治先生

中高の現状

文科省の新しい教育課程では高大接続改革が叫ばれております。学力の三要素①知識・技能②思考力・判断力・表現力③具体的な学習意欲。こういったことが取り上げられており、高校現場では大きな転換期を迎えております。我々も他校の取組みを見て参考にしたりと勉強をしている最中です。授業ではアクティブラーニングや課題解決学習やグループ学習等、そういったことをどんどんと進めています。高等学校の英語の授業ではグループ学習を行っています。授業の始まりに教員が課題を与え、説明をします。残りの時間はグループで考えながらお互い教え合いの学習を行っています。この勉強方法を取り入れた生徒達のセンター試験の結果が良いものになってきている。つまり受験指導でもアクティブラーニングは可能であるとわかりました。中学での理科の授業ではかなり以前からアクティブラーニングを取り入れており、普通教室でもグループ学習を行っております。授業では2回に1回は実験実習を行い、必ず何かを触ってみる体験授業を取り入れています。この中学3年間の集大成が「卒業研究」です。個人で研究テーマを一つ決め、それを中学3年次の1年間かけて研究する。研究テーマの縛りは設けず、生徒個人の興味関心があることを選んでもらいます。テーマを考えるところから生徒達には課題を意識させている。参考文献を自分で探すことはもちろんですが、フィールドワークを必ず行うことを条件にしております。生徒達は研究成果をまとめた上で、パワーポイントを使ってクラス全員の前でプレゼンテーションを行います。そして優秀だった生徒には卒業式で保護者や来賓の前で発表をしてもらいます。研究のレベルは生徒それぞれですが、この「卒業研究」で大事なことは自分で見つけてきた課題に対してどういった取組み方をしているか。アプローチの仕方が間違っていたら、何が間違っていたのか考えながら最終的にまとめるか。これこそまさに探求型の学習だと思います。そしてこの「卒業研究」で行ってきたことを、もっと範囲を拡大し、学年横断型の学習として考えを拡げたものが4D-Labです。

4D-Labとは

・「総合的な学習の時間」における学年横断型の課題探求学習 中高の授業や活動は学年やクラス単位で行うことが多い。しかしその学年やクラスの枠を取り払い、例えば中学2年生が高校生と一緒に活動するようなプログラム。
・大学における「研究室(Laboratory)」。 大学の研究室をイメージしてこれを中高に下したような活動。
・三次元を意味する3Dに「時間」の概念を加えた4D(四次元)を冠することで「社会のおける普遍性」の意味を込めている。 ネーミングは中高生にわかりやすく。(中高生は形から入るのが好きなので)3Dという言葉をよく聞くので4Dと言う言葉用いた。

我々教師が生徒に望んでいることは、高校卒業から大学入学そして社会人になる将来に向け、世の中に出た時に必要な力を学校で身につけて欲しい。その力をこのプログラムを通して養っていきたいと考えています。

今後の中高のあり方

電大中高における校訓は「人間らしく生きる」と掲げております。この言葉は大学における「技術は人なり」という丹羽先生の言葉を中高向けに焼き直した形です。技術を通した社会貢献という意味ですが、中高の校訓も社会的な役割を果たしながら、自分らしい生き方ができるように指導していきます。学習とは文化の探求です。知識は人間が築き上げた文化であり、文化に触れ探求することこそ真の学習、自ら探求し経験することを重視しており、直接的な効果はなくても体験・経験することが大切であると生徒には指導しております。中高では『学問知+経験知=実践知』であると指導しており、これはどんな社会でも通用する人材の育成、生きていく力を身につけさせることを大切にしております。 学問知は基礎基本の習得を目指した日々の授業、講習や模試を通じた実力養成のことです。経験知はさまざまな体験学習プログラム、課外活動、クラブや委員会等。そして実践知、これは生徒自らが能動的に取り組んでいるもの、校外の様々なプログラムにも参加しております。生徒達には様々な経験をさせ、そこから何かを学んでほしい。そしてそれが社会の中でどのように役に立つかを自ら考えられる力に変えて欲しいと願っております。

電大中高校訓

正門に掲げられた校訓
「人間らしく生きる」(ギリシャ語)

学校で身につけることは大事ですが、身につけた上で何をしていくのか、あるいは身につけた知識が古くなったときに次に何を身につけるかを自分自身で考える。あるいはどのような手段で身につけるか。学生時代に知識を身につける学習習慣をつけておかないと、社会に出たときに新しい知識や技術が備わらない人間になってしまう。これからの学校に求められていることは、生涯にわたって学び続ける意欲をもった人間、自ら考え行動できる人間を育てることだと考えております。 言われたことをきちんとやれるのは大事だけれども、新しいことに何かチャレンジしてみる勇気。そういったものがないと次のステップには進めない。電大の中高生にもそういった気持ち、意欲、あるいは社会に対する目を向けさせたいと考えています。

今、必要な力とは何なのか

中高では4D-Labのワーキンググループを作りました。そこでこのラボを立ち上げた際に話しあったことは「そもそも今必要な力とはいったい何なのか?」 そしてたどり着いたのが次にあげる5つの力です。

1.視野の広さ 目の前だけのことではなく、広くものごとを見て自分のやるべきことを考えられる。
2.冒険心 新しいことにチャレンジできる。
3.専門性 自分がこれだけのものを持っていると言えるかどうか。
4.共感 仕事や研究はチームで行うものですから、お互いに協力しあってできるかどうか。
5.向上心 上を常に見られるかどうか。

この5つの力が備わっていれば世の中に出ても学び続けることができるのではないか。そのように我々は考えた次第です。この5つの力を育成するための総合学習がTDU4D-Lab、自主・探求・協調。教員はこういったことを意識しながら指導を行い、生徒達の活動を促したい。具体的には課題認識をさせる→生徒自ら問題提起し課題を設定→そして調査させる。調査の結果を考えさせて一つの成果としてまとめます。まとめた上で新たな問題も生まれてくる。そこでまた調査→思考→まとめ→問題提起。とぐるぐると周りながら段々とステップアップしていく。要するにらせん状に上がっていくのがラボのイメージです。

具体的な活動

具体的にどのように活動しているかと申しますと、4月から大体月に1回くらいのペースで年10回活動。1回の活動は80分間。しかしフィールドワークもありますので、この10回以外にそれぞれが外に出て行う活動を奨励しています。あるいは家で観察や実験をする時間も活動内容として奨励しています。中学1年ではラボの活動は行わず基礎的なグループ学習を実施しています。実際には中学2年~高校2年までの4年間の活動となりますが、高校に上がる段階で1度だけラボの移動を認めております。これは高校からの入学生がいる関係で人数が増えますので、この段階で1度ラボの移動を認めている次第です。4D-Labのテーマを一応設けております。分野ごとにわけてはおりますが、これは生徒にイメージさせやすくする為です。各グループが20名くらいになるようには分けております。

4D-Labの課題

Labは生徒の活動が主体ですので、教員はその活動をいかに引き出せるかファシリテーターとしての指導力の向上。ここを我々が一番懸念しているところです。教員と言うのは教えるのが仕事ですから教えたいんですね。黙って見ていられない。生徒に課題認識させるときにも「何が大事なのか?」「何が問題なのか?」そこを黙って待った上で生徒自身に考えさせるのが本来のラボの目的ですが、課題が出てくるとついつい教えようとしてしまう。このラボが始まる前に教員研修を行っていますが、そこではとにかくファシリテーターに徹して、教えないでくれ。ということを指導しています。後押しするのは結構ですし、変な方向に行きそうになったら軌道修正するのはかまいませんが、とにかく生徒自身に考えさせる。ただこれが本当にうまくいくか、おそらく始まってからも教員研修は何度もしなければならない。あるいは指導についての共有もしなければならないと考えています。あと、問題としては実際の評価はどうするのか。探求型の研究は評価の数値化ができないことです。ですから今後はその評価をどのようにするのか、今さかんに言われている行動評価の部分をどうするかが今後の課題です。 さて今まで申し上げてきたことが4D-Labの活動。まだ始まって間もない活動ですが、中高のこういった取組みに注目して頂きながら、できれば大学の先生方と連携を取りながら、このラボの成功を願っております。どうかご協力をお願い致します。


中高でもアクティブラーニング、課題探求型授業といったものは授業を進めていく上でとても有効な手段となっているようです。Labの目的は生徒自身が社会人として生きていくための能力を身につけさせる。高大接続と叫ばれている今こそ、大学としても中高Labの発展に力添えができるような取組みができればと考えます。

■参考
東京電機大学中学校・高等学校 4D-Labのウェブサイト