FD/SDセミナーレポート「サマープログラム探究学習ワークショップ(評価編)」

2018.03.27

前回に続きサマープログラム探究学習ワークショップレポートをお送りします。
ここからは探究学習における評価についてワークショップを行いながら、佐藤先生より評価方法をレクチャーして頂きました。

探究学習の評価

以前より大学入試センター試験は選択式試験であるため、思考力を問われる問題ではないと言われていました。正しい推論をしなくても答えが合えばそれで良いという風潮が浸透していると言われています。以前から指摘されていたこの課題ですが、2020年度より大学入試は思考力を問うような新テストに変わることになりました。その背景には文科省が求める「一つに答えが定まらない問いに自ら解を見出す。思考力・判断力・表現力の能力を重視する」という考えがあります。大阪大学、東京大学、京都大学でもAO入試を始めましたし、こうした定員枠は今後増えていくでしょう。
探究学習が目指しているところも「思考力・判断力・表現力」に繋がるようなことであると考えます。探究学習の最終的な評価をどのようにするのか。ペーパーテストでは測れないようなものがメインにはなると思います。では評価方法にはどういったものがあるのか。これを皆さんと共有したいと考えています。

自己評価と他己評価

自己評価を学生にさせると、他者が観察できない内面まで評価ができます。しかし振り返りの評価の仕方が大切で、単純に目標と反省だけで自己評価をさせるのではなく、しっかりと振り返りを促すような問いを作ることが大切です。自己評価を真面目にする学生ほど自分の評価を低くする傾向がある一方、反対に表面だけの浅い分析で浅い評価をする学生もいます。そのため評価基準をこちらが提示することや、複数回自己評価をさせることで、ある程度の水準まで上げることができます。
他者評価の場合は授業担当教員の評価、ゼミ担当教員、あるいは第三者の教員が評価することもできます。探究学習の場合、活動範囲が広がるので、インターンや地域の方に評価をしてもらうこともできます。他にも学生同士に評価をさせることもできます。
探究学習は中間での評価が大切になりますが、評価自体をより良いものにするには、間に何度か評価の時間をいれると全体が納得できるものとなります。どのタイミングで誰が行う評価であるのか、シラバスには明記する必要があります。

ルーブリック評価

ルーブリック評価は物事を客観的に見るときに非常に有効です。もちろんシラバスや到達目標を口頭で説明しているとは思いますが、学生にとっては明快な理解につながらないこともあります。そこでルーブリックによる基準を示すことで、学生にとっても教員にとっても、今どの段階であるか確認がしやすくなります。ルーブリックの観点・尺度・基準などと分類していけば、複数の先生が評価に関わる場合にも評価基準がぶれることが少なくなります。一番大切なことは教員側の採点時間が減るというよりは、学生に何を期待し何を求めているのかを明快にすることです。ルーブリックを共有すれば学生も探究学習を進めていく上で、課題から離れていくことがなくなります。探究学習はプロセスが非常に大切ですので、細かく設定されていれば学生も段階的に修得することができます。

学生と一緒にルーブリックを作る手法もあります。私の授業では学生全員でルーブリックを分担して作成させたりもします。目標設定はこちらが提示し、その中から何を選ぶかは学生自身が決めていく。内容に関わるものであるのか、技法に関わるものであるのかを分けてそれぞれどのようなことを求めているのか決めさせます。この作業をすると学生の記憶にも残り、探究学習を進めていく上でルーブリックに沿うように学習を深めることができます。教員がルーブリックを作ると否定的な言葉を入れることがありますが、学生が作ると「もっと頑張ろう君ならできる」など励ます言葉が書いてあり、自分達が傷つかないように作成する者もいます。

他には複数の教員でルーブリックを作成する場合もあります。その場合は、去年の成果物やプレゼンの様子などを関わる教員が全員で共有し、各教員の評価基準を一度デモンストレーションしてみることをお勧めします。そのような作業を行うと「Aの観点評価にばらつきが生まれている」とか、「Dの観点評価は平均的になった」など、評価基準を見直すことができます。何度も話し合いを繰り返しルーブリックを作成していると、評価者同士での基準値にばらつきがなくなっていきます。

振り返りの時間

探究学習において振り返りの時間は非常に重要なものです。かつて日本の教育用語では「振り返り」ではなく「反省」という言葉が使われていましたが、反省では何か悪いことをしたかのような気分になります。振り返りの時間があると、探究学習で学んだことや、プロセスを経てどのようなことを感じたのか、あるいは既にある情報を整理するなど、その場で多くのことを学ぶことができます。考察して振り返ることで、後の思考に繋げることができる。これを授業期間が長いものに関しては、期間の中盤で行うと後半からは改善につなげることができます。授業内で振り返りシートを作り、グループ内で互いに他己評価をしても良いでしょう。しかし学生は始めのうちは遠慮してあまり言葉が出てきません。そこへファシリテーターが介入し、相手に対して空欄があることは失礼であり、改善点や励ましの言葉を書くよう伝えます。ファシリテーターは「この空間は互いに評価をしても許される場所である」といった雰囲気を作ってあげます。

どうすれば質の高い探究者を育成できるか

ワークショップの最後に3回の講座を通して学んだことを参加者で発表しました。

(参加者からは以下の意見が出されました)

・行動の変化が探究学習の究極目標である
・探究者が育ったかどうかは授業内では確認できない
・教員自らが質の高い探究者になること
・身近なロールモデルがいれば影響力がある
・自らの成功体験
・探究することが面白いと感じられたら成功
・良い問いを作るためのトレーニング授業があっても良い
・ファシリテーターの重要性

終わりに探究者を育てるための鉄則をご紹介します。一つ目は探究エピステモロジー(認識論)を持つことです。知識は自分で発見し、使うことで身体の一部にするものである。システムの一部であること。そしてシステムとともにどんどん変化していくものである。このことを学生自身に考えさせなければいけません。今までの小中高で行っていた調べ学習や、仕事のタスクとは違うものであることをしっかりと教えなければいけません。二つ目は親も教員も先輩も、教える側の人間自身が探究者であること。そのことがとても大切になります。


以上が3回にわたる佐藤先生のお話です。人を集めただけ、調べ学習をしただけでは「探究」ではないというお話はとても新鮮でした。真の探究者になるには、常にアンテナを張り巡らせる必要があるのかも知れません。