FD/SDセミナーレポート「学習効果を高めるシラバスの書き方」

2018.10.10

教育改善推進室主催、平成29年度FD/SDセミナーでは<学習効果を高めるシラバスの書き方>と題して、大阪大学の佐藤浩章先生をお招きし、シラバスの役割、目的・目標・評価の書き方など、効果的なシラバスの書き方をレクチャーして頂きました。後半はワークショップを行い実際の授業で使えるシラバスを作成しました。
(2017年10月19日に開催した内容を編集したものです)

佐藤浩章先生 ご紹介

大阪大学
全学教育推進機構 教育学習支援部 准教授
 佐藤 浩章 先生

(ご略歴)
1997年北海道大学大学院教育学研究科・修士課程修了
2002年北海道大学大学院教育学研究科・博士後期課程単位取得退学 博士(教育学)
同年4月より愛媛大学大学教育総合センター教育システム開発部講師・准教授
教育・学生支援機構教育企画室准教授・副室長を経て2013年10月より現職

この間、ポートランド州立大学客員研究員、キングスカレッジロンドン客員研究フェロー、名古屋大学客員准教授、北海道大学客員准教授、国立教育政策研究所高等教育研究部客員研究員、新潟医療福祉大学客員教授、大正大学客員教授、愛媛大学客員教授を歴任。

専門は,高等教育開発,技術・職業教育学。

(著書)
『大学のFD Q&A』(2016、編著)
『大学生の主体性を促すカリキュラム・デザイン』(2016、編集代表)
『大学の質保証とは何か』(共著、2015)
『大学教員のためのルーブリック評価入門』(2013、監訳)
『学生と楽しむ大学教育:大学の学びを本物にするFDを求めて』(2013、共著)
『大学教員のための授業方法とデザイン』(2010、編著)
など

シラバスとは何か

 シラバスとはコース授業を始めるにあたり、最初に提示する授業計画のことです。私たち教員がシラバスと聞いて思い浮かべるものはどういったものでしょうか。大学指定のシラバスフォーマットがあって、そこに書きこむスタイルもあると思います。しかしA4用紙1枚のものをシラバスとは呼べません。アメリカの大学では、シラバスは数十ページで構成されており、A4用紙1枚のものは授業選択時に使用する授業概要と呼ばれています。日本の大学では1990年代頃から海外の大学を見倣いシラバスを作り始めました。しかし海外のシラバスは分量の多さから敬遠され、授業概要よりは内容が濃いが本来のシラバスよりは薄い、日本独自の型が現在の主流となっています。
 シラバスの役割はもう一つあり、学生と交わす契約書の機能です。教員が学生に対し期待する項目が細かに記されていて、先生によっては学生にサインをさせる方もいます。シラバスを巡ってはアメリカである裁判が起きました。勉強をしたが達成目標に届かなかった原因は教員の責任であると訴えられたのです。笑い話のようなことが海外では本当に起きます。日本ではこのようなことは無いと考えるかも知れませんが、今後留学生も増えていきグローバル化が進むと、日本の大学でもしっかり考えなければならなくなります。

学習効果を高めるシラバスとは

 シラバスを毎回の授業で学生に確認をさせることで、学びをもっと高めることができるのではないでしょうか。シラバスに目的・目標を書くことにより、学生にとっては「今日受ける授業の到達目標」が明確になります。評価の観点からもシラバスにはじめから記載されていれば、曖昧な部分がなくなります。シラバスを見ることで教員は評価しやすくなり、学生にとっては評価基準が明快になります。授業スケジュールが決まっていれば今後の授業の進め方もはっきりとします。このように、授業が始まる前段階でシラバスをしっかりと作成しておけば、これから受講しようとする学生には授業の雰囲気が伝わります。シラバスに空欄が多くあり、授業の説明が不足していると、やる気のない科目と思われ、やる気のない学生が集まってきます。シラバスは授業の雰囲気を伝えるためにも大切なツールとなっています。

目的・目標を書くこと

 シラバスに目的を書くことは非常に重要です。学生から「何故この授業を履修しなければならないのか」と問われたとき、どのように教員側がこたえるか。その意義を目的欄に記します。「~するために」といった書き方をすると記入しやすくなるでしょう。学問分野によって違うとは思いますが、学生が授業に価値を見出せるような書き方をして欲しいと思います。
 そして目標の書き方ですが、目標は各授業の終了段階で学生に修得してほしいことを書きます。書く際は学生を主語にし、評価・観察が可能な動詞を記述します。目標は評価と直結しますので、評価できない動詞は書きません。科目で掲げた目的を実現させるための、より具体的な行動につながります。大切なことは必ず箇条書きにすることです。一つの文章に沢山の動詞を入れてしまうと評価が難しくなります。一つの文章には一つの動詞のみにしぼり、評価の基準を明確にします。目標の難易度の設定は現実的かつチャレンジ可能なレベルにして下さい。ジャンプして手が届くくらいのレベル設定がベストです。この目標設定の見極めは学生と生身で接している教員にしかできないことです。
 大学のシラバスフォーマットによっては、長い文章が入らないことがあるかも知れません。その際は大きな目標だけをフォーマットに書きこみ、その枝分かれした小さな目標を別紙に記す方法もあります。

スケジュールの書き方

佐藤浩章著(玉川大学出版)

 シラバスに記載するスケジュールは、学生がより理解しやすい順序にしましょう。学修順序の原理としては、「学生が目標を達成しやすいように配置する」「学生の学習意欲を高めるように配置する」。この2つの原理に基づいて、シラバススケジュールを見直してください。例えば、講義は一方的に話すのではなくアクティブラーニングをどこかで取り入れてみる。中だるみのおこりやすいコース授業の途中では、ゲストスピーカーを呼ぶことや学生にディベート大会をさせるなど、起伏にとんだ授業を試みて単調さをなくし、毎回の授業が印象に残るものを設計してみましょう。
 人間の記憶というものは低下するものです。それは避けることができません。そのため各回の授業の冒頭を、前回の復習から始めることで記憶の呼び覚ましをします。他にも小テストを積み重ねることで記憶の定着を図り、定期テストへ結びつけるとことも有効です。また長い講義が続くと意識を集中させることが難しくなるので、合間に休憩をはさんでリフレッシュを試みることも大切です。
 授業全体で扱う量を減らすことはできないので、同じ内容であっても順番を変えるなどの工夫で学修効果を高めることができないか、試行錯誤してみてください。

評価の書き方

 学生がシラバスをみる際、1番重要視している部分は成績評価です。評価欄をしっかり書き込むことで、科目の「目標」決まります。そのため目標に掲げていないものは、評価の対象にしてはいけません。
評価には測定可能なものと不可能なものがあり、意欲・関心・態度などは測定が難しいものです。例えばグループワークを実施する際、「グループ貢献度」とするだけでは抽象的です。この場合「発言回数」「発言内容」など具体的な表現を、評価項目に記述しても良いかも知れません。
 シラバスは一貫性を持たせる必要があります。「知識・理解」を目標に掲げた場合の評価方法は「多肢選択テスト」が考えられます。「思考・判断」を目標に掲げた場合は「記述式テスト」や「口頭試験」を評価方法にするなどが考えられます。また、複数項目を目標設定にしている場合は、それぞれの評価割合をきちんと記載します。

 受講態度を成績評価に取り入れるべきかどうか質問を受けることがあります。この受講態度は非常に曖昧であり、理解されにくい言葉です。そのため受講態度は評価の対象ではないものの、「他者に迷惑行為を行わない」「授業中には携帯を出さない」「飲食をしない」などと具体的な言葉でルールブックとして示す方法もあります。日本の大学ではまだあまり起こりませんが、アメリカの大学ではルールブックに書いていないことを注意すると、学生と教員でトラブルになることがあります。無用なトラブルを避けるためにも、細かなルールは科目ごとに教員が決めるのではなく、大学側が学生に提示した方が良いと思います。

グラフィックシラバスの作成

 グラフィックシラバスご存知でしょうか。シラバスの内容を「文章だけで表したもの」をテキストシラバスと呼びますが、そこへ「図解を入れ込んだもの」がグラフィックシラバスです。シラバスは授業の構造を伝えるもので非常に重要な役割を担っています。しかし文章しか書かれていないものだと学生は読んでくれません。イラストやアニメーションに慣れ親しんでいる学生にとって、文章だけの媒体よりも、イラストや図が豊富な媒体の方が読んでくれます。学生は授業の全体構造がビジュアル認識できないため、テキストシラバスだけでは授業内容を理解することは難しくなります。グラフィックシラバスはフローチャートやダイアグラム等を用いることで、教員がイメージする授業の全体像を構造化して学生に伝えることができます。図示されているものを提示することで、学生側も知識の構造化が進み、後から情報を付け加えても理解しやすくなります。


 ここまでが佐藤先生のシラバスのお話でした。

 後半はワークショップを行いました。参加者が実際に手を動かして、グラフィックシラバスを取り入れた、実際の授業でも使えるようなシラバスを作成しました。佐藤先生からのアドバイスを受け、専門が遠い分野でペアを組み、お互いのシラバスを披露しました。参加者同士で意見を言い、時には学生の気持ちになって質問をしながら、「学生にとってわかりやすい、より良いシラバス」を作成しました。参加者からは、「グラフィックシラバスをつくることで、授業の全体像を構造的にとらえられるので、授業を見直す良い機会になった」という声もきかれました。参加者同士が熱い議論を交わす、大変活況なワークショップとなりました。