令和2年度 PBL教育支援プログラム 成果報告「環境と化学」

2021.04.01

開講学部 工学部/応用化学科
科目名 環境と化学
担当教員 保倉 明子・田中 里美

Q1 PBLを導入した意図・目的

本科目では、身近な環境問題を科学的に考え、環境にやさしく持続可能な社会の実現にむけた「ものづくり」の取り組みを概観することを目標にしている。また工学基礎教育から専門教育への橋渡しの役割を担っている。PBL支援プログラムとして実施することで、学生のアクティブラーニングを促し、①自学の姿勢、②コミュニケーションスキルの向上、③プレゼンテーション能力の向上、④課題を読み書きすることで表現能力を高めることを目的とする。
2014年度からPBLを実施し、講義の最終回には、企業等から講師をよび、実践的な課題についてグループディスカッションすることで、学生がそれまでに教科書等から得た基礎知識を元にした、社会における課題解決を図ってきている。

Q2 授業におけるPBLの実践方法

アクティブラーニングを実践するため、昨年同様、様々なワーク課題1~5を課した。

課題1:グループワークとプレゼンテーション
【グループ分けの方法】1グループ3~4名。ランダムにグループ分けをして、グループごとに発表テーマを初回に割り当てた。
【授業方法】第4~6回までの3回は、発表の準備のグループワークをZoomのブレイクアウトルームを活用して実施した。発表内容のキーワードの選出、ストーリーボード作成、スライドの作成、発表練習をグループワークで行い、作業時間にファシリテータをつけた。毎回の作業結果を個人およびグループ単位で提出した。
第7回~第12回までの6回は、学生グループによる発表とした。1グループで15分の発表時間。
毎回の授業には事前課題(A4で1枚、3題程度)を課した。学生発表のあと、事前課題についてのグループディスカッションを実施し、グループごとに議論したあと、Zoomのメインルームで意見を共有した。これにより、受身になりがちなオンライン講義でも、参加型の講義とすることができた。


図1 Zoomホワイトボード機能を活用してのグループワークの様子

図2 学生作成のストーリーボード

図3 Zoomでの発表の様子

 課題2:科学関連図書
下記のうち3冊読み、レポート(A4用紙2枚ずつ)にまとめる。

課題図書一覧
タイトル 著者
ヤモリの指から不思議なテープ 松田 素子
沈黙の春 レイチェル・カーソン
世界史を変えた新素材 佐藤 健太郎
不都合な真実 アル・ゴア
創るセンス工作の思考 森 博嗣
生涯最高の失敗 田中 耕一
科学者という仕事 酒井 邦嘉
嫌われ元素は働き者 日本化学会 編
もうダマされないための「科学」講義 菊池 誠
新・材料化学の最前線 首都大学東京 都市環境学部 分子応用化学研究会 編
「地球温暖化」狂騒曲 社会を壊す空騒ぎ 渡辺 正
自然に学ぶものづくり 赤池 学
海洋プラごみ問題解決への道 重化学工業通信社・石油化学新報編集部
技術は人なり。丹羽保次郎の技術論 東京電機大学編
「はかる」と「わかる」くらしを変える分析の話 堀場製作所コーポレート・コミュニケーション室+工作舎 編
学生にもっとも読まれた本は、「ヤモリの指から不思議なテープ」で、全体の54%が選択していた。

課題3:国立科学博物館の見学
本学と大学パートナーシップを結んでいる国立科学博物館へ行き、「物質を探る」、「環境にやさしい化学をめざして」、「科学と技術の歩み」などに関する展示のうち1点を選択し、それに関する事項を調べて、レポート用紙2枚にまとめる。

課題4:「社会における環境科学」グループディスカッション
外部講師による講演のあと、下記の11のテーマに分かれてディスカッションを行った。1グループは8人程度。
1. 環境配慮型の商品(化粧品)開発をしよう!(資生堂)
2. 未来では食糧が足りなくなる? 限りある食資源の有効活用法を考える(味の素)
3. 種々の媒体を置き換えるための新たなICTを構築しよう(TDK)
4. 個人の行動と環境問題について考えてみよう(埼玉県環境部)
5. 「水をつくる」ということについて考えてみよう(メタウォーター)
6. 節水と快適性の両立を考えてみよう!(TOTO)
7. 未来の環境問題に必要となる「化学」を考えてみよう!(三井金属鉱山)
8. 革新的かつ環境に優しい発電方法を考えてみよう(東芝)
9. 環境に優しいエネルギーとは?もう一度、考えてみよう(日本エア・リキード)
10. 快適で豊かな生活と地球環境保護の両立について考えてみよう!(花王)
11. 未来のパッケージを考える(大日本印刷)

グループディスカッション当日にきちんと議論が始められるように、第13回にはグループごとの自己紹介の機会をもうけた。また、事前課題をやっているかどうかあらかじめ確認した。自分の意見・アイデアをWordなどにまとめ、グループディスカッション当日は意見・アイデアをまとめたデジタルコンテンツを共有し、意見交換できるようにした。

図4 Zoomでのグループディスカッションの様子

課題5:小論文
下記のテーマについて、400字以上800字以内で記述する小論文を課した。
テーマ1:グループディスカッションで取り組んだテーマについて、意見やアイデアを述べなさい。
テーマ2:本講義を学んできた中で、あなたが一番興味をもち挑戦したいと思ったグリーンケミストリーの課題や環境問題を一つ挙げ、その理由を記述しなさい。また、課題解決に向けて、今後どのような科学技術が必要とされるか、意見を述べなさい。

Q3 授業における成績評価方法

グループ評価点(発表、スライド)
・スライドを工夫して作成しているか
・課題についてよく調べているか
・内容をよく理解しているか
・わかりやすいプレゼンテーションか

個人評価点(レポート等)  
①科学関連図書、②国立科学博物館、③小論文
・テーマについて良く調べているか
・適切な資料を用いて調べているか
・調べた情報元が正しく記載されているか
・分量は適切か
・読みやすく誤字脱字のない文章で記載されているか

Q4 学習成果の可視化の取組み

グループの学習成果については、全6回の発表を通じて各分野の学習前と学習後の理解度を可視化している。

チャート1 学習前後の理解度

どの分野も理解度が向上しており、学生自身が学習効果を実感している。
また、第14回社会における環境科学(ゲストスピーカーの講演とグループディスカッション)の小論文でも、12回までの学習成果を発揮できたとの意見が多い。
授業終わりにPBLに関する独自のアンケートを実施し、講義を履修する前と比べた学習の効果について回答を得た。アンケート結果からわかるように、受講前と比較し、この分野への興味・関心が高まっている。PBLの実践が専門教育の導入として成功しているといえる。

チャート2 学習の効果

Q5 PBLを発展させるための課題

上記のアンケート結果からわかるように、環境問題に関する基礎知識や科学的な見方、興味や関心が高まった、という項目については、身についたと感じている学生が多い。また、昨年度と比較すると、どの項目も「とてもよく身に付いた」と感じた学生の割合が高くなっていた。今年度は、(A) 講義内で課される複数の課題の目的を明確に理解する、(B) 課題の有機的なつながりを理解する、ことを目指したことにより、自信をもてるようになったと考えられる。また、課題提出にWebclassを活用したことで、学生自身のタスクマネージメントの意識向上も得られた。
今後、さらにPBLを発展させるための課題として、言語表現力を向上させる課題設定が望まれる。たとえばルーブリックを元にした、レポートの相互チェックなどが考えられる。

Q6 授業の概要と進め方

第1回:ガイダンス、班分け、自己紹介
第2回:グリーンケミストリーとは、役に立つ物質をつくる
第3回:高分子の化学
第4回~6回:発表の準備、スライド作成、発表練習(グループワーク)
第7回:大気環境(大気の成分、大気汚染物質、酸性雨、汚染物質の対策、排出粒子の対策)
第8回:水環境(資源としての水、上水道、水質汚濁、水質環境基準)
第9回:地球温暖化(温室効果と温室効果ガス、温暖化への対策)
第10回:オゾン層(オゾン層破壊の化学反応)
第11回:エネルギー(エネルギー変換)
第12回:廃棄物のリサイクル(循環型社会とリサイクル関連法)
第13回:グループディスカッション準備(課題の実施状況確認、自己紹介、グループ内の役割分担を決める)
第14回:社会における環境科学(ゲストスピーカーの講演とグループディスカッション)


〇PBLを主体とした教育への取組みに対する支援(PBL教育支援プログラム学内公募)

東京電機大学教育改善推進室では、平成23年度から「学生が主体となって学ぶ」形式を取り入れた、いわゆる「PBL(Problem-Based Learning又はProject-Based Learning)」による教育の開発・運営を「PBL教育支援プログラム」として支援し推進しています。
PBL教育支援プログラムは、これからPBLを取り入れていこうと考えている教員やすでに実践しているPBLをさらに工夫しようと考えている科目を対象に支援を行い、その実践と成果を学内の関係者と共有し、学生の学びを主体とした教育の推進を図ることを目的としています。