「停留精巣」において精子が形成されない原因は温度のみであることが判明

2022.05.06

NEWS RELEASE
報道関係各位

東京電機大学・刀祢 重信 特別専任教授らの研究成果
「停留精巣」において精子が形成されない原因は温度のみであることが判明
~「Histochemistry and Cell Biology」に採択(2022年1月)~

学校法人東京電機大学

東京電機大学(学長 射場本 忠彦)の刀祢 重信 特別専任教授(現 本学研究員、分子発生生物学研究室(研究当時))の研究グループは、精巣が腹腔内にとどまってしまう「停留精巣」において、精子が形成されない原因が温度のみであることを明らかにしました。
人間をはじめとする哺乳類(象とクジラを除く)の精巣は、生まれる前に陰嚢内に下降し、空冷式に冷やすことで精子が正常に形成されます。ところが、新生児の数%は精巣が腹腔内にとどまってしまう「停留精巣」という病気にかかります。停留精巣になると精子が形成されないため、男性不妊の原因の一つとなるほか、精巣腫瘍の発症リスクが高くなります。この停留精巣については、これまで多数の研究がされてきましたが、精子が形成されない決定的な原因は不明でした。
同研究グループは、温度を変えて試験管内でマウスの精巣を培養することにより、腹腔内と同等の37℃では精子ができず、34℃にするだけで精子ができることが判明。このことから、停留精巣により精子が形成されない決定因子は温度のみであることを突き止めました。
なお、本研究成果は2022年1月、「Histochemistry and Cell Biology」(Springer& Nature Publishing 社)に採択されています。

<研究概要>

●研究の目的
男性不妊の原因の一つとして「停留精巣」が知られる。停留精巣ではなぜ精子が形成できないのか、多数の研究がなされてきたが、決定的な原因は不明である。そこで温度だけを変え得る試験管内培養法により、マウスの精子形成について調査した。この調査により、37℃では精子ができず、34℃にするだけで精子ができることが判明。しかし、停留精巣では精巣が腹腔内にあるためホルモン環境、免疫環境、酸素分圧なども異なることから、本当に温度だけが決定因子なのかを明らかにする。

●研究の成果
本研究により、停留精巣における精子形成について、以下の成果を得た。

(1)精子形成の決定因子は温度のみである
試験管内を体温と同等の37℃にすると精子ができないが、34℃にするだけで精子ができる。

図1(34℃のとき)

図2(37℃のとき)

精子になる前にアクロシン遺伝子が発現すると細胞が緑色に光るように遺伝子操作したマウスを使い実験を行った。矢頭で示す赤色は生殖細胞全部のマーカー、矢印で示す緑色はアクロシンGFP。

(2)37℃で培養すると、精子になる細胞がDNA複製できなくなる
体温と同等の37℃で精子培養すると、精子になる細胞がDNA複製できなくなる。これが停留精巣において精子ができない主要な原因である。

図3(34℃のとき)

図4(37℃のとき)

34℃培養ではDNA複製をしているS期細胞(矢頭で示す)が多数検出されたが、37℃ではほとんど検出されなかった。

(3)精子ができない要因はアポトーシスではなく、DNA複製が停止するためである
停留精巣において、精子ができない原因はこれまで、37℃になると精子になる細胞がアポトーシス(プログラム細胞死)によって死ぬためとされてきた。しかし、実験において試験管内の温度を37℃から34℃に下げると、精子になる細胞はスイッチが入ったかのように目覚めて精子を形成することが分かった。これにより、37℃では精子になる細胞は死んでしまうのではなく、DNA複製が停止し、眠っているだけであると考えられる。

●将来の実用化
精子になる細胞のDNA複製装置が37℃で不活性化するターゲットが分かれば、その分子を補うことで、精子形成が部分的にも進行する可能性がある。半数体細胞が得られれば、完成した精子がなくとも、顕微授精法で受精させることは可能である。よって本研究が実用化されれば、将来の不妊治療の一つになる可能性がある。

■刀祢 重信 特別専任教授(研究当時、現 本学研究員)プロフィール
・氏   名:刀祢 重信(トネ シゲノブ)
・略   歴:
1988年 理学博士取得(名古屋大学)
1988年 和歌山県立医科大学 助手
1994年 東京都臨床医学総合研究所
(現:東京都医学総合研究所)主任研究員
1998年 川崎医科大学 准教授
2016年 東京電機大学大学院理工学研究科 特別専任教授
(2022年3月まで)
2022年4月から同大学理工学部研究員
・専門分野:分子生物学、細胞生物学
・学会活動等:日本生化学会、Cell Death学会、分子病理学研究会等の評議員

<取材に関するお問い合わせ先>
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