人工知能による酵素の発見

2022.03.24

Press Release

国立大学法人神戸大学
学校法人東京電機大学
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所

人工知能による酵素の発見:
代謝のミッシングリンクを解読して医薬品を製造する

神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科のChristopher. J. Vavricka准教授、東京電機大学理工学部の高橋俊介助教、医薬基盤・健康・栄養研究所 AI健康・医薬研究センターの荒木通啓副センター長、神戸大学先端バイオ工学研究センターの蓮沼誠久教授らの研究グループは、未知酵素発見が可能な機械学習予測モデルを開発し、代謝工学と結びつけることにより、植物由来医薬品原料の微生物生産に成功しました。今後、様々な有用物質、機能性素材、汎用化学品のバイオプロダクション加速が期待されます。この研究成果は、3月16日に、英国科学雑誌Nature Communicationsに掲載されました。


ポイント
■近年の合成生物学の進展により、植物由来医薬品原料の微生物発酵生産が期待されている。
■鎮痛薬原料として広く使われるBIAを生産対象とする場合、代謝経路を構成する酵素の一部が未知であることが課題であった。
■酵素発見の問題解決に向けて、機械学習予測モデルを開発し、設計(Design)-構築(Build)-評価(Test)-学習(Learn)のDBTLワークフローに結び付けた。
■未知酵素(ミッシングリンク)を発見し、大腸菌によるBIA生産に成功した。
■本研究で開発したAI×バイオの手法は、様々な医薬品原料、機能性素材、汎用化学品の製造に応用可能であり、環境調和型のバイオプロダクションを通してSDGsへの貢献が期待できる。


研究の背景
世界の医薬品の多くは植物から抽出された化合物から作られています。こうした化合物(医薬品原料)は植物内の存在量が少ないことから、これを得るためには大規模な栽培や工業処理を必要とし、環境的、経済的な負荷をもたらしてきました。ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)は鎮痛薬の原料として広く使われていますが、こうした事情が大量生産の長年の課題となっていました。
一方、バイオテクノロジーの近年の進展は目覚ましく、植物由来の遺伝子を微生物に導入して発現させることにより、植物の代謝経路を微生物に実装し、元来微生物が作らない有用物質を生産することが可能になってきました。培養が容易な微生物を大量に培養することで、有用物質は効率的に発酵生産されるため、生産工程の環境や経済への負荷を低減することができます。こうした手法は合成生物学的アプローチと言われ、バイオテクノロジーによるモノづくり(バイオプロダクション)の新潮流となっています。BIAにおいてもこうしたアプローチの適用が期待されていますが、技術的な課題がありました。
微生物でBIAを生産するには多数の酵素反応からなる長い代謝経路を構築する必要がありますが、植物由来酵素の一部が知られていないことが課題でした。この「ミッシングリンク」は合成生物学的アプローチによるバイオプロダクションでしばしば起こる問題で、従来、分子生物学者の多大な時間と労力を必要としても解決できないケースが多くありました。本研究では、酵素反応を予測する機械学習アルゴリズムを開発し、予測モデルを適用することでBIA生成に必要な酵素の発見に成功しました。


研究の内容
本研究では未知酵素を探索するために、設計(Design)、構築(Build)、評価(Test)、学習(Learn)からなるDBTLワークフローを構築しました(図1)。この新しい概念では、情報科学により化学反応を設計し、遺伝子工学により組換え酵素を作出し、代謝工学により酵素機能を評価し、機械学習により酵素の探索を行います。このサイクルを回すことで、未知反応を触媒する酵素を絞り込み、最終的には発見にいたります。

本研究は、酵素反応を予測する機械学習アルゴリズムを開発し、DBTLワークフローにプラグインすることで新たな予測モデルを構築し、これにより、オピオイド鎮痛薬の前駆体化学物質(BIA)を生成する酵素を発見しました。本研究のブレイクスルーは、設計(Design)ステップのデータ処理に加え、ラボ実験で新たに取得するデータを利用してAIの予測モデルを立てるという、いわばリアルタイム機械学習を開発した点にあり、その有効性を証明した最初の研究になります。


今後の展開
得られた酵素によるBIA大量生産を目指します。本研究で開発したAI×バイオの手法は、様々な医薬品原料、機能性素材、汎用化学品の製造(バイオプロダクション)に応用することが可能であり、環境調和型のプロセスを通してSDGsへの大きな貢献が期待できます。


謝辞
本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の研究開発プロジェクト「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/微生物による高機能品生産技術開発」および「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発/データベース空間からの新規酵素リソースの創出」の支援を受けて実施されました。


論文情報
・タイトル
“Machine learning discovery of missing links that mediate alternative branches to plant alkaloids”
DOI:10.1038/s41467-022-28883-8

・著者
Christopher J. Vavricka*, Shunsuke Takahashi*, Naoki Watanabe, Musashi Takenaka, Mami Matsuda, Takanobu Yoshida, Ryo Suzuki, Hiromasa Kiyota, Jianyong Li, Hiromichi Minami, Jun Ishii, Kenji Tsuge, Michihiro Araki, Akihiko Kondo, Tomohisa Hasunuma (*equal contribution)

・掲載誌
Nature Communications


問い合わせ先
< 研究について >
■神戸大学先端バイオ工学研究センター
センター長・教授 蓮沼 誠久
E-mail: hasunuma※port.kobe-u.ac.jp
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■医薬基盤・健康・栄養研究所AI健康・医薬研究センター
副センター長 荒木 通啓
E-mail: araki※nibiohn.go.jp
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< 報道担当 >
■神戸大学総務部広報課
  TEL:078-803-5453  E-mail: ppr-kouhoushitsu※office.kobe-u.ac.jp
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■医薬基盤・健康・栄養研究所 戦略企画部
  TEL:072-641-9832  E-mail: kikaku※nibiohn.go.jp
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■学校法人東京電機大学総務部企画広報担当
  TEL:03-5284-5125  E-mail: keiei※jim.dendai.ac.jp
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